2021年3月2日火曜日

中途視覚障がい者が大学で働く上での工夫

皆様 
こんにちは。
佐藤 正純です。
 
今回は私が中途で視覚障がい者となってから大学で教鞭をとるようになるために行った工夫を紹介します。 

瀕死の重傷で失明や歩行困難などの重度障がい者となった私は 医学の知識と経験を生かして若い学生を教えることが唯一の社会復帰のチャンスと考えて機能訓練を続け6年後に社会復帰してから今日まで19年間 基本的に大学や専門学校の非常勤講師として医学の講義を仕事としてきましたので、まずはそれについてお話します。 

失明を含む重度障がい者となって脳神経外科医としての復職が不可能となった私がまず考えたことは、 自身の医学知識を生かして教育の仕事を目指す他には社会復帰の道はないということでした。 
その手段として墨字や点字は非現実的で、音声読み上げソフトというソフトは視覚障がい者が自立するための画期的なITであり、 その技術を習得するための恩師に恵まれたことが私の社会復帰のための最初のステップになりました。 

次に、教壇に上がって学生に講義をするためには、まずそのために必要な情報を集めて講義資料を作成しておくことが必要で、 教科書から情報を得ることが不可能な視覚障がい者は非常に不利な立場にあります。 しかし、私の場合幸いにも最初は医学史や医学一般という項目の中で講義のシラバスは私の思うように作成しても良いと任せていただき、 必要な情報はインターネットで検索してくれる同級生や後輩、知人などに恵まれたことで、 比較的速やかに情報を収集することができ、その情報から自分なりの教科書を1冊完成させることには大変な労力を必要としましたが、 逆に自分のペースで講義プログラムを完成させることができたのは有利だったのかもしれません。 

そのうち私は障がい者団体を通して知り合ったテキストボランティアの方に既存の教科書をそのままテキスト化していただいて読むことができるようになったため、 大学のプログラムに従って講義を進めていくこともできるようになりました。 とは言っても、教壇に上がって全く視力に頼ることなく90分の講義内容をすべて自分の記憶だけで達成することは難しいことで、 私の専門である脳神経外科の講義などは立て板に水ですらすらと90分話すことができても、 専門外の科目を依頼された時には最初のうちは記憶に頼って60分ほど話すことができても 最後には話すことがなくなってしまって終了のチャイムが待ち遠しいなどと思ったこともありました。 

そうしたことが起こらないようにするため、講義資料は1週間に1日の講義のために1週間毎朝4時に起床して教室で読みながら私の講義を聴いてもらうために学生に配布するものと、私が学生にわかりやすく説明するために講義前日までに作成してICレコーダーに録音して自分が何度も読んで記憶するためのものと二つを作成します。 講義前日は記憶すべき資料を何度も読んで、翌日に朝寝坊しないために晩酌はせずに早めに就寝します。 当日は目覚ましで3時に起床して軽く朝食をしたらまた1時間資料を読み返して4時30分に出勤。 確実に座れるように始発電車に乗って大学まで3時間の通勤の間、車内ではずっとICレコーダーで資料を読んで記憶を確かめながら過ごします。 大学には講義が始まる1時間前に到着します。 

それは、視覚と歩行に障害がある私が通勤のための歩行訓練の先生に指導を受けた時に厳しく指導されたことで、 自分が約束の時間に遅れそうになって急いだりするのは危険だということを自覚して、十分な余裕をもって通勤しなさいと言われたためです。 そのおかげで、もしも電車が遅れるようなことがあっても余裕をもって早めに大学に 到着することができますし、 そんな時は遅刻して来た学生や先生方よりも先に到着した私が待っているということも多くなって、大学内での私の信頼を増すことにもなります。 大学に到着してトイレや他の先生との打ち合わせをする以外は、また資料を読みながらどのように話を進めるか頭の整理を進めて準備をします。 こうして早起きして万全の準備をすることで、どうにかその日の3時間の講義を無事に達成することができるわけです。 

そんな生活を私の努力と呼んでくださる方もいますが、 これは障がいを負った私がハンディを克服するために考え出した方法で、 努力というより工夫と呼ぶべきものだと考えています。 つまり障がい者はまず自分のハンディを素直に認めて、必要な場合は健常者の協力を求めること。 そして、そのハンディを克服するために様々な方法を考えて工夫することが仕事を続けるために必要だと思います。 

(ウサギとカメ)という民話は世界中いたるところにあるそうで、 日本の(ウサギとカメ)はのろまなカメでも努力すればウサギに勝てることがあると努力の大切さを教えています。 

ところがアフリカのカメルーンの(ウサギとカメ)では カメがウサギとの競争の前日に、仲間を会場の途中の区間ごとに並べて配置しておいて ウサギをかく乱して勝利するという話で、弱者でも仲間の協力と工夫があれば強者と闘えるという教えなので、 
私はいつもこの話を思い出して、障がい者にとっての座右の銘にしています。

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